前回は初乳の給与量、その考え方についてのウィスコンシン大学獣医診断研究所からの問題提起について記載しました。
今回は、同じくウィスコンシン大学のCangiano先生からのIgG以外の部分での初乳が子牛の免疫にどう働きかけるか、それを私たちはどう理解すべきか、というこれまた新しいトピックがありましたのでご紹介します。ほんと、初乳、奥深すぎる~。
Smart Calf Rearing Conference
beyond the IgG / IgGのその先へ
・ウィスコンシン大学のCangiano助教は、米国ウィスコンシン州マディソンにある同大学で開催された「Smart Calf Rearing Conference」での最近の講演において、初乳の多面的な役割に関する新たな知見を共有した。
・彼の研究によると、初乳はIgGの受動的移行を媒介するだけの存在ではなく、子牛の免疫の軌跡に影響を与える生物学的プログラミングツールであることが示唆されている。
・初乳には、腸の発達を促進するインスリン様成長因子(IGF-1)などの成長因子、栄養素、ビタミン、サイトカイン、そしてT細胞やB細胞のような白血球も含まれており、これらは生後間もない重要な時期に細胞性免疫応答を調節するのに役立つ。
・彼は、受動免疫の成功基準を再定義した2020年の研究を引用し、抗体の移行が十分であっても疾病リスクは依然として高いことを強調し、初乳のより広範な機能を理解する必要性を指摘した。
・彼の行った研究から以下のことが言える:
- 適時かつ高品質な初乳の給餌は依然として不可欠。初回給餌量は子牛の体重の8%とし、理想的には生後2時間以内に行うべきであり、生後8-12時間後の間に体重の6%の2回目の給餌を行う。
- 新鮮な初乳が入手できない場合、適切に扱われる限り、凍結初乳は信頼できる選択肢となり得る。
- 乾乳期における母牛のワクチン接種は、子牛が初乳を通じて抗体の保護を受けられるようにするために極めて重要。
- 初乳はIgGの移行だけでなく、免疫系をプログラムし、マイクロバイオームを形成し、炎症反応を調節することで、生涯にわたる健康の基盤を築く。
・彼が指摘するように、初乳は単なる栄養源ではなく、無菌状態の子宮と微生物が豊富な外界をつなぐ生物学的架け橋である。初乳は抗体、免疫細胞、成長因子、そして微生物に関する「指示」を提供し、これらが一体となって新生子牛の円滑な移行を導く。
ふむ。それでは早速、具体的な論文を読んでみる。
初乳のIgG以外の免疫への影響
Exploring the impacts of colostrum on systemic immune development in dairy calves – Journal of Dairy Science IgGだけじゃない、全く免疫を持たずに生まれてきた子牛が、どのように初乳からIgG以外にも包括的に免疫機能の形成にかかわる影響を受けているか?調査した。
・分娩後1時間以内に母牛から初乳を採取し(BRIX28%)、子牛を3つの処置群:新鮮初乳(n = 8)、凍結初乳( n = 8)、初乳欠乏(n = 8))のいずれかに無作為に分けた。
・新鮮初乳群・凍結初乳群の子牛には、出生後2時間以内に、母牛からの初乳のみを体重の8%分与えたのに対し、初乳欠乏群には体重の8%分の代用乳を与えた。母牛は分娩後12時間以内に再度搾乳され、分娩後8~12時間に体重6%量の初乳を2回目として給与した。
・初乳給与が子牛の液性免疫だけでなく細胞性免疫に及ぼす影響、自然免疫含む全身の免疫に及ぼす影響について調査した。
ー全群で、γδT細胞は生後2日以内に著しく増殖したが、初乳欠乏群ではその維持が出来ず生後7・14日齢にてCD4+およびCD8+ T細胞の代償的な増加が認められた。
👉Tリンパ球集団の中で、γδ(ガンマデルタ)T細胞は新生子牛において感染症に対応できる主要なリンパ球サブセット。自然免疫系と獲得免疫系の間の架け橋のような役割を果たす。生後1ヶ月間の循環リンパ球の半数以上を占める。初乳が生後数ヶ月間にわたりγδT細胞を主要なリンパ球サブセットとして維持するのに寄与していることを示唆しており、それには初乳を介した母体由来のサイトカインの移行、特にIL-10の関与が濃厚。
👉初乳がマクロファージのIL-10分泌を促進させるという報告もある。初乳由来のサイトカインが、γδ T細胞の優位性を維持し、不必要な炎症を抑制し、無菌的な子宮内環境から微生物が豊富な外界への重要な移行期において新生児の免疫系を導くようなサイトカイン環境の確立に寄与するという考えられる。
ー初乳欠乏群の好中球は、炎症誘発性状態が高まっていた。初乳の欠乏は、T細胞およびB細胞のプロファイル、単球のプロファイルを変化させた。記憶細胞の分化にも影響が見られた。
👉初乳中のサイトカイン、主にTNF-α・IL-8・GM-CSFなどの欠乏により生後早期の好中球・マクロファージの活性化亢進が観察された可能性。これらの閾値の微調整に初乳が重要な役割を果たしている可能性を示唆している。
ー新鮮初乳群は、凍結初乳群と比較し、CD45RO+ γδ T細胞の割合が低かった。
・これらの知見は、生後早期における自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方のバランスの取れた発達と調節を支える上で、初乳が果たす極めて重要な役割を浮き彫りにした。
・新鮮初乳群、凍結初乳群のいずれもIgGの移行を促進したものの、凍結初乳群はγδT細胞の記憶成熟に変化をもたらした。これは加工方法が発達経路を変化させる可能性があることを示唆している。
初乳のIgG以外の免疫細胞への影響、こんなに明確に見たのは初めて!凄いなぁ。初乳をたくさん飲ませることが、生後1か月以内の疾病率の低減に寄与する事は実感していて。それは血中IgGが高まったからだと思っていたけど、それ以外の細胞性免疫をカバーして、いわゆる、免疫の谷間、(親からもらった免疫が低下して自分の免疫を働かせていく)っていう、あの時期もうまく乗り越えられるよう、IgG以外の部分でも初乳が関与している可能性が高いんだ、っていうことがよくわかりました。
IgGを超えて:子牛の初期免疫機能の形成における初乳の役割の解明
そして、カンジャミノ博士の文献をもう一つ、これは実験ではなくここまでで分かっている「初乳中の有用成分について」のまとめ!めちゃくちゃ分かりやす~!!!そして文献の内容をNotebookLMに表にしてもらった。
Beyond immunoglobulin G: Dissecting the role of colostrum in programming early immune function in calves* – JDS Communications この図👇めちゃくちゃ完成度高い~!
| 成分カテゴリー | 成分名 | 含有量/濃度 | 主な機能・生理作用 |
| 免疫グロブリン | IgG (IgG1, IgG2) | 全Igの約80-85% | 受動免疫の譲渡、全身感染の防御、腸管内での病原体結合と中和。 |
| 免疫グロブリン | IgA | 全Igの8-10% | 粘膜免疫の保護、局所的な防御。 |
| 免疫グロブリン | IgM | 全Igの6-7% | 初期免疫応答の活性化と病原体の中和。 |
| 成長因子 | IGF-1 (インスリン様成長因子-1) | 200-1000 ng/L | 腸管上皮細胞の増殖促進、粘液分泌および抗菌ペプチドの分泌促進。 |
| 成長因子 | TGF-β (トランスフォーミング増殖因子-β) | 20-50 ug/L | 経口免疫寛容の誘導、ナイーブT細胞から制御性T細胞への分化促進、腸管上皮の増殖。 |
| 成長因子 | EGF (上皮成長因子) | 10-50 ng/L | 腸管バリア機能の強化、病原体の移行阻止、細胞増殖の促進。 |
| 成長因子 | インスリン | 10-100 ng/L | 小腸の発達促進、絨毛の高さの増加、粘液産生の増加。 |
| 成長因子 | 成長ホルモン (GH) | 1-10 ng/L | IGF-1産生の刺激を通じた腸管成熟の促進。 |
| 栄養素 | タンパク質 | 130-150 g/L (14-16%) | 吸収効率の高い栄養供給。成熟乳の4倍以上の濃度で新生子牛の発育を支援する。 |
| 栄養素 | 脂質 | 60-80 g/L (6-7%) | 高エネルギー源の提供。成熟乳の約2倍の濃度。 |
| 栄養素 | 炭水化物 (乳糖) | 約25 g/L (約2.5%) | 浸透圧の調整による下痢の予防。成熟乳(約5%)より低く抑えられ、栄養吸収を円滑にする。 |
| ビタミン | 脂溶性ビタミン (A, D, E) | A: 25 mg/L, D: 1.5 mg/L, E: 4 mg/L | 抗酸化作用、活性酸素の除去、酸化ストレスの軽減。 |
| ビタミン | 水溶性ビタミン (B2, B12) | B2: 5 mg/L, B12: 0.05 mg/L | 代謝の支援と成長促進。 |
| マイクロRNA | EV miRNA | 数百種類 | 遺伝子発現の微調整、腸管上皮の分化調節、抗炎症作用。 |
| 白血球 | 母性免疫細胞 | ー | 腸管バリアを通過して循環系に入り、免疫機能の発達を促進。 |
| サイトカイン | IL-1 $\beta$ , IL-6, IFN- $\gamma$ , TNF- $\alpha$ | ー | 免疫システムのプログラミングと炎症反応の調節。 |
| プレバイオティクス・抗菌物質 | オリゴ糖 (OGS) | ー | 善玉菌(ビフィズス菌等)の増殖促進、病原体付着の阻害(デコイ効果)。 |
| プレバイオティクス・抗菌物質 | ラクトフェリン / リゾチーム | ー | 直接的な抗菌作用。微生物の過剰増殖の抑制。 |

ということで、まとめのスライドを、これまたNotebookLMに作ってもらった。
生きた免疫細胞を与えたほうが良いということでパスチャライズせずに給与される方もいて、その効果はどれだけ違うんだろうと疑問に思っていたので、今回の結果では、記憶細胞にはやや影響はあるものの大きな影響ではなく、冷凍やパスチャをしない方がいいよ!というほどではない、ということでした。でも生きた免疫細胞が届くのはやはりイメージ的にも良いとは思うので、衛生的な給与が可能であればその選択肢も引き続きアリだよねと思いました。
それ以外にも、IgG以外にも初乳がこれだけ!大きい免疫全体にかかわっていること、子牛の免疫は生まれてからどんどん発達していくこと、改めて認識し、非常に面白く思いました。今日は2つの異なる面からの最近の初乳に関するトピックを読みました。あー面白かった!



